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中谷産婦人科


小説 中谷産婦人科

Amazonで販売中の980ページ近くにわたる三部作の超長編小説です。
より多くの女性に夢をお届けしたいので、無料公開をいたします。
様々なテーマを重ねた重厚な内容で、大人の女性向けの小説です。
恋愛、妊娠、結婚生活、出産、ジェンダー問題など、リアリティな話題が盛り沢山です。
興味がございましたら、是非このマニアックな世界観をご堪能下さい。

https://www.excite.co.jp/news/article/Mogumogunews_31963/
mog2様より書評を頂きました。読書の参考にしてくださりますと光栄です☆

内容紹介

失恋の苦しみから崖っぷちに立たされた私は、バイト先の男性に勢いに身を任せるまま、妊娠をしてしまう。
しかしその先には、全く予想もつかず、次々と驚くべき「芸術」の世界が広がっていた。産婦人科での奇妙な医者や不思議な少女達との出会い、学校という閉鎖的な社会から離れた大人の女達との交流、結婚相手の男性の意外な素顔、壮絶な出産・・様々な体験が私を鮮やかに塗り染め、次々と開眼させられていく。「建築と植物」、「人工と自然」、「女性性」をテーマに、運命に身を任せるまま17歳で失恋、妊娠、退学、結婚、出産の体験をした主人公の激動の一年間を描いた物語。

目次はこちらから

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中谷産婦人科No.1 三章 大人への階段・・ほろ苦く甘い味⑦彼女との再会!

 途中で休憩時間となり、私はもうさっきからずっと我慢をしていたのでトイレへ急いだ。
 何人かの人達も私と同じように急いでいた。
 私がトイレから出てきた時はもう行列ができていた。
 それを見て、みんな近すぎる尿意に悩まされているんだろうなと思った。

 元の席に戻ろうとした時、突然「ハッハッハッハッハ~ッ!?」
と尻上がりに甲高い泣き叫ぶような笑い声が響いた。

 それは刑事ドラマの最終段階でよく見る、いよいよ犯行が暴かれてしまい、あまりにも悲観に暮れるがあまりに気が触れた挙句、ついには自嘲気味に笑いだす犯罪者の演技に似ているものだった。

 その方角へ視線を走らせると、最前列に座っている白衣の医師達の中に混じって、この前の橘という医師の姿があった。

 橘医師は他の医師達に向かってしきりにふざけては一人で笑っていた。
 そして、次から次へと順繰りに、トイレから自分の席へと足早に戻って行く妊婦達の方に興味津々と目を走らせ、さも滑稽で仕方がないと言った様子で、尚も肩を震わせながら歯をむき出しておかしそうに笑い転げていた。

 その一人だけビックリ箱から飛び出してきたかのように、全身で悩乱した動きを取る様は、会場の中で異様に目立った。私はこの医師が薄気味悪くて仕方なかった。

 後半の説明が始まる前に、妊婦達にリンゴジュースが配られた。
 院長の残りの説明が終わると、今度は華やかに助産師のような人が登場して、入院中の食事がどんなにおいしいかをにこやかに語り始めた。
 メニューは和、洋、中と取り揃えてあるとのことで、手には赤と茶色と黄色の革製の表紙のついたメニュー表を持ち、こちらに掲示していた。

 私は「入院中の食生活も評判で楽しみ」と楽し気に語っていた例の三年生の先輩の言葉を思い出し、何もかもが彼女の言う通りなことに感心した。

 それでも入院生活が一体どのようなものか今一つ思い描けない私は、「各自めいめい食堂のような場所に食べに行くのかしら?」と考えたりしていると、院長が再び登場して、患者へのサービスについての独特な哲学についてを語り始めた。

 「お産で入院するお母さんの元気な胃袋を満たして、夫婦、家族の幸せな出発を祝ってあげたいね。」
 そのため、「食事はご飯から」と自分で評判の料理店を食べ歩き、「この味だ」と思う店に厨房担当者を連れて行き、その味が出るまで米の銘柄や炊き方を変えさせたし、味噌汁も手を抜かず、お代わりがしたくなる味にこだわったのだと付け加えた。

 すると最前列でピーッと口笛を吹き鳴らす音が聞こえ、周りの医師たちが騒然としているような声が耳に入ってきた。
 何事だろうと首を持ち上げると、先ほどのヒトラーのような医師が激しいジェスチャーで、橘医師と声高に口論を始め、周りの医師たちが止めているような光景が見えた。

 しかし、ステージから院長が降りて、厳しい眼差しでそちらを一瞥すると、途端にまた静まり返った。

 今しがたの不穏な光景を拭い去るかのように、ニコニコと助産師が再度登場すると,、マタニティビスクはとても楽しくて、安産になりやすいから是非どうぞというような話で締めくくられた。
 会場の出口は混雑しているので、通路に自然と列ができた。
 中々出入り口に辿り着けないので、さり気なくそちらの方角を見て私は思わず「あっ!」と声をあげた。

 他の妊婦たちに紛れ、一人だけ異質な少女めいた可愛らしい姿があったのだ。

 初診の時に見かけたあの赤と白のサマードレスを着ていた可憐な少女である。

 「間違いない、あの子だ!」

 少女は、キラキラとした銀のリボン模様を一面に散らした淡いピンク色のネグリジェのようなロングドレスを着ていて、ざっくりとした黒のニットを羽織っている。
 くりくりとカールされた赤い髪の毛は頭の高い位置で左右二つのシニヨンに結い上げられ、その周りをふわふわとした白いリボンで飾っていた。

  初対面の時と変わらない可憐な姿であり、彼女があの服装でティディベアを片手に持っても何の違和感もないだろうと思われた。

 少女はもう出入り口近くまで迫っているが、中々外に出ることができないので、人が空くのをいじらしげな様子でじっと待っていた。

 混雑のせいか頬に赤みが差していて一層可愛らしく見えた。
 彼女は明らかに周りから浮いていて一人だけマスコットキャラのようであるが、マイペースに自分の個性を貫き通している風情が微笑ましかった。

 少女の着ている薄い生地のゆったりとしたワンピースの下に、僅かながら膨らみが見えた。

 「あの子もやっぱり産むことにしたんだわ。よかった。」

 同時に、周りから異質めいた彼女の、お腹の少しせり出した姿は、なんとなく人間離れしていていじらしい動物を思わせた。
 生まれつきの赤い髪の毛をふさふささせているので、よけい獣じみて見えるのかもしれなかった。

 その時だった。
 何気なく観察している私の視線を感じたのか、彼女が私の方を振り返ったのだ。

 五メートルほど離れた距離であったが、はっきりと目が合ったのを感じた。

 彼女は他の妊婦たちから私を切り離して、あどけなくキョトンと驚いたような表情を浮かべたが、やがて口元で僅かに微笑んだのだった。

 まるでそれを合図にするかのように、入り口付近で滞っていた人の波が緩やかに動き始めた。その波に紛れて少女の姿も消えた。

 「あの人・・今、私に微笑んだ?」
 外に出ると、もう少女の姿はどこにもなかった。

 ほんのわずかな時間にやや離れた場所から見かけただけであったが、私は彼女に会えたうえに、アイコンタクトのできたことが嬉しかった。

 二度あることは三度あると言うし、ひょっとしたらまた再会ができるかもしれないと胸が躍った。



つづく